一通の茶封筒
それから私はまた、何かを忘れたい一心で生きた。
離婚に向けての書類もほぼ揃い、あとは弁護士とタッグを組んで調停でめったんめったんにしてやる予定だった。
何度も、娘なら父親という存在を消すことに躊躇したが。
もういてもいなくても同じ、という生活を続けて3年が経っていた。
ある日、娘をいつも通り保育園に迎えに行き。
「ママ、今日の晩御飯はー?」
など、いつもと変わらない帰り道。
手を繋いで娘と一緒に歩く自宅までの散歩。
いざ、自宅に到着した時。
なんとなくポストが気になった。
ポストを開けると、広告に紛れた一通の茶封筒を見つけた。
まず目に入ったのは、見知らぬ個人名が差出人として書かれていたこと。
嫌な予感しかしなかった。
スッと表に返すと
「家庭裁判所」
からの手紙である事を知った。
娘を抱き上げ、玄関に走り、靴も脱がないまま封筒を開けた。
クソ!調停こっちからやってやろうと思ったのに、あいつに先手打たれた!!
クソ!クソ!
と、乱暴に封を開けて中身を取り出した。
そこに書かれていた申立人の名前は
「なつみ」
であった。
あの泥沼結婚から3年経ったというのに、またその名前を目にするとは思わず、腰が抜けそうになった。
そこに書かれていたのは
協議離婚無効確認の調停
婚姻無効確認の調停
損害賠償請求の調停
◯月◯日、10時に来い。
という、家庭裁判所からの召喚通知だった。
頭の中は「は? あ? え?」しかなく。
そのまま夫に電話をした。
「ちょ、なんか裁判所から通知きて。
あんたの元嫁からわけわからん調停起こされてんねんけど、これどういう事?」
そう問いただした。
返ってきた言葉は
「俺にも届いてんねん…
意味がわからんわ…はて?」
とすっとぼけた回答。
は?意味わからんのはこっちじゃボケ。
はよ元嫁に連絡して事の詳細聞いて来いボケ!
とガチャ切り。
その直後、私は夜中までこの調停のさっぱり意味のわからない
協議離婚無効確認、婚姻無効確認
についてGoogle先生に聞いた。
引っかかるページの多くは、弁護士事務所のHPだったり、アホー知恵袋であった。
協議離婚無効確認
これについてはざっと説明すると、離婚届に署名捺印したけど提出する(された)時、私は離婚する気がなかった!
だから離婚を無効にして欲しい、というものたった。
は!?
なん今更そんな事で騒いでんのwww
3年経ってますけどwwww
と吹いた。
婚姻無効確認、これは上記の協議離婚無効確認の調停で離婚が無効と認められた際。
既に元配偶者が再婚していた場合、遡ってその婚姻自体を無効にする、というもの。
当たり前だ、元嫁との離婚が無効になれば後妻との婚姻をそのままにしておくと重婚になる。
そういう事だ。
なんだ?
今更ワシとの婚姻を解消させたいという元カノの法律を使った新ての嫌がらせか!?
お前と旦那の離婚劇になんで私が関係すんの?
そもそも私、不倫してねぇし。
離婚した、俺は独身バツイチだと嘘をついていたのは男の方ですが何かwwww
と、笑いながらGoogle先生が教えてくれる事を読んでいた。
その時、偶然目にしたアホー知恵袋を見て。
毒婦は顔面蒼白になったのであった。